HOME NEWSROOM 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ(ハイブリッドタイプ)の技術動向

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ(ハイブリッドタイプ)の技術動向

2019年06月20日

はじめに

アルミニウム非固体電解コンデンサ(以下電解コンデンサと記す)は、安価で小形、大容量が実現できるデバイスとして多くの電子機器に使用されている。

しかし、電解コンデンサは他のコンデンサに比べて抵抗が高く、またその特性は温度の影響を受けやすく特に低温域では抵抗の増大と容量の減少が著しいことから、低温域で使用される機器には適したデバイスではなかった。

この欠点を補うため、主に電気特性に影響を及ぼす電解液の開発が活発に行われ、現在では、長寿命化、低抵抗化、温度特性などの特性が改善され、性能が向上してきた。この結果、車載機器、産業機器、通信機器など広温度範囲で高信頼性が求められる機器での採用が拡大してきている。

特に車載機器については、近年、自動運転の本格導入に向けた先進運転支援システム(ADAS)等の安全系を中心とした機能拡充や環境規制の強化に伴う車両の電動化の進展を背景に、電子制御ユニット(ECU)の搭載点数も大幅に増加している。また、車載ECUは従来、温度や振動が穏やかな車室内に搭載されていたが、車内空間の確保やワイヤーハーネス削減の為、エンジンルーム内への配置が増加している。

エンジンルーム内は車室内に比べて高温環境になるのに加え振動環境も厳しくなり、ECUに搭載されるコンデンサには今まで以上に高温度や耐振動性が要求されるようになった。

更に車載機器の省スペース化、軽量化、省電力化の要求に伴い、従来の電解コンデンサでは対応出来ない小型化,低ESR化,高リプル電流の性能要求が高まっている。 ルビコンでは、これらの車載要求に応えるため、従来の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサを独自のハイブリッド技術により高性能化したハイブリッドタイプを開発し、車載機器の高機能化に貢献してきた。

本稿では、ルビコンがこれまで開発してきた導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ(ハイブリッドタイプ)の技術動向について紹介する。

導電性高分子コンデンサの開発

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ(以下導電性高分子コンデンサと記す)は、電導性に優れた導電性高分子を使用していることから温度による特性変化が少なく、低抵抗で高リプル電流に対応でき、電気的特性の経時変化が小さいという特徴を持っている。一方で導電性高分子は電解液に比べ誘電体皮膜の修復性が乏しい等々からコンデンサの定格電圧は25V程度が上限とされていたため、車載ECUにはあまり使用されてこなかった。

ルビコンはこれらの課題を解決すべく開発を進め、独自のポリマー技術(高純度PEDOT,特性安定化剤や反応抑制剤の添加)を採用した導電性高分子コンデンサPZAシリーズを2013年に上市した。PZAシリーズは63Vまでの定格電圧を有し、従来からある導電性高分子コンデンサの特徴を維持することが出来た。

その後、同じポリマー技術を採用し面実装化したPAVシリーズ(105℃品)、高温度を保証可能にしたPZC、PCVシリーズ(125℃品)を商品化し、品種の充実を図ってきた。

更なる高性能化 / 独自ハイブリッド技術の採用

開発した導電性高分子コンデンサは従来の電解コンデンサより低抵抗、高リプル電流、優れた温度特性を実現したものであったが、表1のようにサイズが少し大きく静電容量が少ないものとなっていた。当社の導電性高分子コンデンサは、誘電体皮膜の修復機能を持たせた特性安定化剤を配合しているが、電解コンデンサで使用している電解液と比較すると皮膜修復能力が小さいため、同じ定格電圧の製品でも電解コンデンサより高耐圧の陽極箔を使用していた。このために導電性高分子コンデンサは電解コンデンサに比べて容量が少ないものとなっていた。

ルビコンはこの課題を解決するために、導電性高分子の性能を阻害せずに、誘電体皮膜の修復機能を有する液体(機能性液体)を独自に開発し、その液体を付加する、いわゆるハイブリッド化することで、導電性高分子コンデンサの性能を維持したままで陽極箔の耐電圧を下げることが可能となった。この技術により電解コンデンサと同等の高容量化を実現したハイブリッドタイプ(PFVシリーズ 125℃品)を開発し、2015年に上市した。

シリーズ PFV
(導電性高分子ハイブ
リットタイプ)
PCV
(導電性高分子
コンデンサ)
TGV
(非固体アルミ電解
コンデンサ)
静電容量(µF) 330 100 330
サイズ
(ΦD×L ㎜)
10×10.5 10×12 10×10.5
ESR
(Ω/100kHz)
0.02 0.03 0.12
リプル電流
(mA/100kHz)
2,000 2,000 550
寿命
(時間/125℃)
4,000 3,000 3,000
表1 性能比較例(25WV-Φ10品)

独自開発した機能性液体はイオン成分を含まない液体なので、コンデンサの電気的特性に影響を与えない。従って、PFVシリーズの電気的特性は導電性高分子の性能のみによって現れ、導電性高分子コンデンサの特長である低温から高温まで安定した電気特性及び経時変化の小さい寿命特性を維持している。(図1、2参照)

図1 ハイブリッドタイプと電解コンデンサ ESRの温度特性比較 25V 330µF (Φ10×10.5L)
図2 ハイブリッドタイプと電解コンデンサ 125℃耐久性試験比較

更に、機能性液体は一般的な電解液に用いる溶媒よりも熱的に安定しているため、封口ゴムからのコンデンサ外部への拡散量が電解液に比べて3分の1以下と少ない。加えて導電性高分子の劣化抑制機能も兼ね備えている為、コンデンサの長期信頼性に大きく貢献している。

ルビコンはPFVシリーズで培った独自のハイブリッド技術を使用し、新規高耐熱性封口材の採用や製造方法の改良により、135℃保証のPHVシリーズ、150℃保証のPLVシリーズなど高温度保証品をラインアップしてきた。(図3参照)

今般、独自のハイブリッド技術を更に改良し、135℃高リプル電流品であるPSVシリーズを新たに開発した。(写真1)

図3 導電性高分子コンデンサ(ハイブリッドタイプ)の製品ラインアップ

PSVシリーズの特長

写真1 PSVシリーズの外観

開発したPSVシリーズの仕様と従来品との比較を表2,3に示す。

PSVシリーズは、耐熱性とESR性能の向上により、高温度中で使用されても長期に渡り安定したESR特性の保持は可能となったため(図4参照)、従来品(PHVシリーズ)の1.5倍のリプル電流という業界トップの定格リプル電流値を保証した上で、従来品の初期ESR規格と同じESR値を耐久試験後の規格値として設定している。 これにより、リプル電流の制約からΦ10品を使用していたところにΦ8品へのサイズダウンが可能となる。また、複数個使用しているセットでは員数の削減につながり、セットの小型化、軽量化に貢献できる。

更に、寒冷地など低温環境下での使用を想定し、耐久試験前後で-40℃、100kHzのESR規格を設定した。これまで、車載機器に使用される電解コンデンサは、低温環境や寿命末期で電気的特性が大きく変化することを考慮し、予めサイズを大きくする等オーバースペックなコンデンサを選定する傾向があった。

PSVシリーズは高温度で優れた寿命特性と耐久試験前後でのESR規格を設定することにより、適切なコンデンサの選定が可能となる。加えて高耐湿性、過温度耐性といった性能も保持していることから幅広い温度範囲で使用される車載機器に最適な製品となっている。

カテゴリ温度範囲 -55℃ ~ +135℃
定格電圧範囲 25V ~ 63V
静電容量範囲 33µF ~ 330µF
製品サイズ Φ8×10.5L ~ Φ10×10.5L
耐久性 135℃ 3,000時間
過温度保証 150℃ 300時間
耐湿性 85℃ 85% RH 2,000時間
表2 PSVシリーズの主な仕様外観
  PSVシリーズ
(開発品)
PHVシリーズ
(従来品)
カテゴリ温度範囲 -55℃ ~ 135℃ -55℃ ~ 135℃
定格電圧-静電容量 35V 270µF 35V 270µF
ケースサイズ(ΦD×L mm) 10×10.5 10×10.5
定格リプル電流(135℃,100kHz) 3,000mArms 2,000mArms
初期ESR(MAX) 20℃/100kHz 16mΩ 20mΩ
-40℃/100kHz 13mΩ (設定なし)
耐久試験後ESR(MAX) 20℃/100kHz 20mΩ 40mΩ
-40℃/100kHz 17mΩ (設定なし)
表3 従来品との仕様比較
図4 PSVシリーズ 135℃耐久性試験 35V 270µF(Φ10×10.5L)

今後の取り組み

前述のとおり導電性高分子コンデンサ(ハイブリッドタイプ)は、低抵抗、高リプル電流、温度特性や耐久性に優れていることからあらゆる機器で採用され始めている。

特に車載用途では欧州を中心に開発が進められている48Vマイルドハイブリッドシステムの普及により、これまで電動化されていなかった高出力用途も電導化が進むと考えられ、高性能なコンデンサの要求は今まで以上に多くなると想定する。更に、安全機能や自動運転の開発で各種センサーの拡充によりコンデンサの搭載点数も大幅に増加するが見込まれる。

また、車載機器だけでなく小型化が求められるハンディータイプの家電や電動工具、屋外で使用され高信頼性の求められる通信機器、照明機器での採用も拡大している。

ルビコンではこれらの市場要求に応えるため、独自のハイブリッド技術の改良を進め、サイズ拡充、高容量化、低抵抗・高リプル化、高温度化、高耐圧化した商品開発によりラインアップの充実を図っていく予定である。

※本稿は、2019年1月24日発行の電波新聞「ハイテクノロジー」の掲載記事です。